坂の上にある住宅など、高低差のある土地では擁壁が設けられています。
マイホーム建築に擁壁が必要である際には、住宅と同じようにメンテナンスが必要です。
どのような条件で擁壁を作らなければならないのか、擁壁の種類や耐用年数とメンテナンスについて解説します。
擁壁費用や起こりやすいトラブルなどについても説明しますので参考にしてください。
Contents
擁壁とは?
崖など斜面がある土地が、崩れないように造られる壁を擁壁と呼んでいます。
山の斜面に建っている建物などを守ることが目的であり、坂の上に住宅が建築されている場所でブロックなどを使った壁状の構造物が擁壁です。
高低差のある土壌は、自然災害によって土砂崩れを起こす可能性があるため、擁壁を設けて崩壊を防ぎます。
安定した土壌でなければ、建物ごと崩落し土砂崩れを起こしてしまう可能性が高くなります。
危険を回避するためにも、高低差の大きな土地に建物を建築する際には擁壁が必要です。
擁壁とブロックの違い
道路よりも高い場所に建てられている建物の下には、コンクリートブロックや石を使った擁壁があります。
ブロックも擁壁も同じように思われがちですが、使用目的が異なるため形状や形にも差があります。
擁壁は建物や土砂が崩れ落ちることを防ぐために作られますが、ブロックは隣家との境界線をはっきりさせるためや、道路から住宅が見えないようにするためです。
間知ブロックを積み重ねた擁壁は、隙間をコンクリートで固めた土台となります。
擁壁工事の種類
街中で見かける擁壁には様々なものがあり、それぞれに特徴や強度なども異なります。
どのような擁壁が強固であるのか、建物を守るにはどのタイプが向いているのかを比較検討してみましょう。
コンクリート造擁壁
コンクリート造擁壁には鉄筋と無筋があり、一般的には鉄筋コンクリート造擁壁が多く使われています。
構造計算が容易で強度が強く、崖に対して垂直に建てやすい特徴もあり、立地条件に合わせて適切な構造を使い分けます。
逆T型・L型・逆L型・重力式・もたれ式など、建物の位置や形状に合わせて選択可能です。
見た目にはスッキリしていますが、高い耐震性を備えており、斜面に垂直な擁壁にもできます。
捨てコンクリートや補強筋を用いない土間コンクリートに無筋コンクリートが適用されることもあるようです。
間知ブロック擁壁
間知ブロックを積み上げ、コンクリートで一体化させることで土圧を均等に分散させる効果が得られます。
河川、堤防などの護岸等で見かけることが多く、狭い場所にも施工可能しやすいことやカーブにも対応できるなどメリットがあります。
コンクリート造擁壁のように、平面ではなく凹凸があることで景観に趣が生まれやすいです。
垂直に施工できないため、高低差が少なく費用を安くしたいときに利用されます。
石積みの擁壁
石積みの擁壁は、見た目に石を組んだように埋め込まれている擁壁のことです。
1950年から1960年代には、大谷石で作られた大谷石積み擁壁がメインでした。
石と石の間にセメントを流し込み固めて強固にしますが、大谷石積みは現在の擁壁基準を下回るため、建物近くに残る擁壁の場合には損傷を確認する必要があります。
石とコンクリートブロックを積んで造る空石積み擁壁は、間知ブロックやコンクリート造擁壁よりも造りが簡素になるため、高低差が大きな場所では注意が必要です。
擁壁の耐用年数
擁壁は高低差を作る際、崖の側面が崩壊するのを防ぐために設けます。
様々な種類の擁壁がありますが、永久性はなく雨風や自然災害によって劣化が進み、崩落の危険性があります。
構造によって耐用年数が異なるため、建物と同じようにメンテナンスを行いながら状態を確認しましょう。
鉄骨鉄筋コンクリート擁壁 | 約50年 |
コンクリートブロック擁壁 | 約30年~50年 |
間知ブロック擁壁 | 約30年 |
石積みの擁壁 | 約20年~30年 |
どの擁壁も平均的に30年は耐久性がありますが、中古住宅などの場合には耐用年数を越えているケースがあります。
状態を確認し、補修ややり直し工事が必要なのか検討しましょう。
擁壁工事の費用
土地の坪単価は立地で変動するため絶対ではありませんし、擁壁の高さや長さも、土壌や土地の形状により変化します。
やり直し工事・補修工事それぞれに、どれくらいの費用がかかるか説明します。
やり直し工事
擁壁の一部が崩れてしまっている、ヒビが入っているなど安全性が確認できない場合には、やり直し工事が必要になります。
放置したことで擁壁が崩壊すれば、建物の倒壊や傾斜が起こり、事故につながる可能性もあるでしょう。
古い擁壁を解体・撤去する費用に加え、新しい擁壁の代金がプラスされます。
強度の高いコンクリート擁壁で高さも長さも大きなものであれば、解体工事にも時間と労力がかかり金額が高くなるでしょう。
新しい擁壁費用は、1㎡当たり3万円〜13万円程度であり、これに解体費用が約35万かかると考えておきましょう。
補修工事
補修工事の場合、1㎡当たり1〜2万円/㎡が目安です。
既存の擁壁を修復すれば、強度が保たれる場合には、やり直し工事のように大がかりな工事にはなりません。
しかしながら、補修や補強状況に応じて金額は異なるので、あくまでも参考程度に考えておきましょう。
不適合な擁壁は、自然災害の被害をもっとも受けやすく、崩落によって人身事故につながるケースもあります。
見た目には問題はなくても、擁壁に水がしみ出していないかを確認しましょう。
ひび割れやブロックのずれ、傾きや部分的なふくらみがある擁壁は危険です。
状態を見極め、適切な補修工事を行ってください。
擁壁の工事やメンテナンスを考えるべき症状
擁壁のやり直し工事や補修工事は、どのような場合に必要になるのでしょうか。
見た目に異常があるだけでなく、小さなサインも見逃さないのがポイントです。
ここでは工事やメンテナンスを考える3つのポイントについて解説します。
排水の不具合
擁壁の排水に不具合があると以下のような症状がみられます。
- 擁壁に水抜き穴がない
- 雨でもないのに湿っている
- 擁壁が膨らんでいる
- 苔が生えている
地中の水分を排出するために水抜き穴が設けられますが、これがないと雨水など地中の水分が擁壁内にたまっていきます。
擁壁内に水分がたまると、水圧によって擁壁が押され変形やひび割れの原因となり危険です。
石擁壁などの場合には、石の位置がずれてしまい劣化を早めてしまいます。
水抜き穴があっても、草が生えていたり苔がむしていたりすると、排水がスムーズに行われていない可能性があるため注意が必要です。
ひび割れやふくれや変形
擁壁の排水がスムーズにできていないと表面に水が染み出し、カビが生えたり、擁壁のふくれや変形が起こったりします。
ひびから水分が入ってしまえば、擁壁の劣化が進行し耐用年数が短くなるだけでなく、倒壊の危険性も高まってしまうでしょう。
排水に問題がある場合は、擁壁の立て直しが必要になるケースもあります。
地震や台風で倒壊の危険性があるため、できるだけ早く専門業者の点検を受けましょう。
白色生成物
擁壁に白く浮き出たような白色生成物は、コンクリートなどに含まれている原因物質が水に溶けだしたものです。
水分が溶けだした部分にあらわれやすく乾燥して結晶化するとこのような状態になります。
目地材に使うセメントに含まれる練水によって浮き出るケースもありますが、施工したときの環境や練水過多、雨などによって発生します。
擁壁全体に白色生成物が広がっている場合には、見えない部分にひびが入っている可能性を疑いましょう。
擁壁で起きやすいトラブ
耐用年数が長い擁壁ですが、自然災害によって地盤がゆるんだり擁壁にひびが入ったりずれが生じるケースも少なくなくはありません。
トラブルの原因は、メンテナンス不足によって擁壁の倒壊の危険性が高まってしまうことです。
擁壁が倒壊しなくても、一部が崩落し道路に落ちてしまい通行人にけがをさせてしまうケースもあります。
地盤が崩れ、家も傾いたり沈むだけでなく、第三者に怪我をさせてしまったり死亡させてしまうと大変なことになるでしょう。
擁壁は定期的なメンテナンスで、状態を確認し大きなトラブルに発展しないように心掛けてください。
擁壁工事における工作物確認申請について
建物の建築の予定がない場所に擁壁を作る場合、工作物確認申請は不要です。
建築確認申請は、建築物の建築が予定されることが明確である場合に提出が必要になります。
ここでは、擁壁の高さ別の工作物確認申請について解説します。
高さ2mを超える擁壁の建設工事
高さ2m超えの擁壁工事は、建築基準法施行令138条に定められた通りに、指定確認検査機関または特定行政庁への確認申請が必要です。
申請を行い、確認を受けないまま工事を行うことはできません。
工事内容によっては、工作物確認申請以外の許可が必要になるため、工事業者に確認しましょう。
高さ2m以下の擁壁
高さ2m以下の擁壁は、建築基準法上では工作物確認申請義務はありません。
そのため、法律の基準で工事が行われず、トラブルが多発しています。
手抜き工事が行われていないのか、擁壁に使うブロックは、防水性や強度が高いのかなどを調べておくとトラブル予防にもつながります。
トラブルや擁壁リスクを回避するための注意点
擁壁トラブルやリスクを回避するには、これからマイホームを建築する土地が基準を満たしているかを確認する必要があるでしょう。
中古住宅の場合、以下のチェック項目に当てはまる事項はないかを確認しましょう。
- ひび割れやふくれ変形がある
- 擁壁全体に白色生成物が広がっている
- 水抜き穴がない
- 水抜き穴が草などで詰まっている
- 擁壁表面が湿っている
- 苔や草が生えている
擁壁の耐用年数は20〜50年です。
新しい擁壁であっても、自然災害の影響を受けて破損しないとは限りません。
安心して生活するため、トラブルやリスク回避のためにも事前調査を行いましょう。
地盤調査も欠かせない
地盤調査を行い、住宅を建てても擁壁に近い部分が強固であるかを確認してください。
擁壁には問題がなくても、地盤に不安があるとトラブルの原因となります。
中古住宅を購入する場合も、擁壁が強固であるか作り直しが必要になるかで価格に大きな違いが生まれます。
その土地で安心して生活するためには、地盤調査は欠かせないものです。
まとめ
高台にある家は、道路からの目線が気にならない、見晴らしがよいなどのメリットがあります。
擁壁も住宅の一部ですから、地盤調査をおこない安全性を確認しましよう。
工事費用は擁壁の種類で大きく変動しますから、複数の業者から見積もりを取りましょう。
擁壁が必要な理由やトラブルの有無や内容、耐用年数を理解し注意点を押さえて、マイホームを建てましょう。